一つ目のパラケラス(仮)

○プロローグ
一つ目の反乱と呼ばれる戦いがあった。
一つ目とはペトリス社が正式採用した学習型AI搭載人型戦闘兵機の通称である。
従来の人型兵機がツインアイタイプであったのに対し、
単眼であった事からつけられたものだ。
人型兵機が一般化し、様々な企業をそれを開発し、性能を競い合っていた。
時が経ち、経営者が変わり、企業の方針も変わっていく。
その末に辿り着いたのが企業間戦争だった。
生産ラインの独占、自社にとって邪魔な存在であるから、
と理由は様々だが、一般市民にとってはたまったものではない。
ラストディザスターと呼ばれた大災害によって荒廃した世界における
国家にそれを止める力はなく、ただ黙認するしかなかった。
企業は各々機体を開発するが、肝心のパイロットが不足していた。
そこで白羽の矢が立ったのが傭兵達だ。
企業は彼らに膨大な契約金を支払い、専属契約させ、戦わせる。
その金額に目が眩んだ傭兵達は企業の申し出に頷くほかなかった
やがてそれは傭兵を使った代理戦争の様子を呈していく。
しかし、所詮彼らは傭兵、企業にとっては捨て駒でしかない。
試験機に搭乗させられ、膨大な契約金を得ながらも、
それを使う事もなく散っていった者も少なくはなかった。
それでも契約する傭兵達が減る事がなかったのは
その金額が一生をかけても到底手が届かないほどの
高額であったからに他ならない。
一つ目もそんな中生み出されたものの一つである。
学習型AIを搭載し、パイロットに合わせた戦闘プログラムを
構築し、戦闘においても適格にサポートする。
これにより他企業の機体から一歩リードしたと言っていい。
ペトリス社にAI研究の第一人者であるアウレス=アルケミアの
存在があったからこそである。
しかし、彼は最後まで自身が開発したAIを戦闘兵機に
搭載する事を頑なに拒否し続けていた。
あくまで彼がペトリス社と契約したのは人の役に立つための
AIを開発するためであって、戦闘兵機に搭載させるためではない。
しかし、ペトリス社は賛同か自身の命を天秤にかけさせ、
彼は結局首を縦に振るほかなかった。
生きてさえいれば何か解決策が見つかるかも知れない。
そんな淡い希望を抱いていたのかもしれない。
こうして戦場へ投入されたAI機は多大なる戦果を上げ、
ペトリス社の戦力は全てAI機に取って代わられた。
企業間戦争はペトリス社の勝利で終わるかと思われた矢先、事件は起きた。
AI搭載機が突如として反旗を翻したのだ。
ペトリス社だけではない、全てに対して。
まるで自分達の存在を誇示するかのように、
ありとあらゆる場所で戦闘を繰り返した。
すでに疲弊した他企業に止める術はなく、
被害は一般市民へと広がり、死者は数万人に昇った。
人々の心に一つ目という名の恐怖が刻み込まれた瞬間だった。
だが、ある時を境に一つ目達は一斉に姿を消した。
撃破されたという報告もなく、主力を失った上疲弊した
ペトリス社は合併した他企業からの侵攻を抑える術もなく崩壊。
一つ目の関係者と思われる者達は全て処理された。
それこそが彼らが一つ目を恐れている証拠に他ならない。
こうして不完全な形ではあるが企業間戦争は終結した。
しかし、一つ目達の所在が不明な以上、安息はなく、
疲弊した彼らに捜索する余力もなかった。
こうして人々は怯える日々を過ごす事となる。
そして、半年の月日が流れた。